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野菜工場は進化にあらず


TPP発効前夜、生産者は不安を隠せない。国はTPP合意事項の説明会を開き、生産者の不安、不満の払拭に躍起になっている。

「収益が落ちた分所得補償します」と国がいえば、とりあえず事態が沈静化するのだが、なかなかそのことばも出さない。逆に、ウルグアイラウンド後に実施した6兆円の農業対策を「バラマキだった」と、農業界に向けて牽制する有様だ。

いかなる貿易の形態でも、利益を得る側と不利益を被る側がある。算段してプラスだから国はTPP参加を決断したはず。そうであるならば、躊躇なく個々の生産者直に所得補償をすべきだろう。

これまで通常時の農業対策は輸入農産物にかけられていた関税を財源にしていた。国民はこの財源の出所を知ってか知らずか、常々「バラマキ農政」と批判していたものだが、関税からの収入が減る分、今度は一般財源からの支出となる。この点を国も、国民も覚悟せねばなるまい。

TPP推進論者は最近やたらと「農産物輸出だ」、「野菜工場だ」、「規模拡大だ」などと喧しい。一般的には、農畜産物の輸出は自国の〝過剰生産物〟を他国に輸出しているものだ。国民はそうした背景をしっかりと認識しなければならない。万国共通の理〝食料自給率の低い国はすべて国内向け〟で、不足分を外国から輸入している。自給率も低く、お金もなく輸入できない貧困国の国民は飢餓状態だ。

ちなみにTPPに参加する主要国の食料自給率(カロリーベース)は米国124%、豪州173%、カナダ168%、NZ300%だ。日本は39%で、過剰分の食料は本来存在しないはずである。現に輸出している農産物といえば「川西の長いも」や「青森のりんご」など別格な農産物で、すべての農産物に当てはまるものではない。「輸出で収入増」は絵に描いた餅。日本は食料の大量輸入国なのである。食料のうち、実に61%が海外依存だ。

TPPで関税が撤廃され、外国産農産物が雪崩打って日本に入ってくれば、日本の食料自給率は今よりさらに下落する。自給率の下落は農業生産の縮小であり、つまり農業の衰退を意味する。そして、離農者続出の現象が顕在化する。国民の命に関わる産業の衰退をわれわれ国民はただ指をくわえて傍観するしか術はないのか。

「海外は日本食ブームだからチャンスだ」という輩もいるが、むしろ農産物というよりも醤油や味噌、麺類、日本酒など加工食品のほうだ。農産物輸出は空論に近い。チャンスがあるとすれば、手間暇かけた高級果物類か。皮肉を込めていえば、一銭にもならないが日本人の徳ともいうべき「いただきます」、「もったいない」の精神を世界に輸出せよ。

オランダが発祥地の野菜工場に至っては、〝なにをかいわんや〟礼賛者があまたいる。オランダは国土も狭く、国民の主食たる小麦生産を止めてまで〝農業の工業化〟をとことん進めた国柄だ。そこで考案されたのが、気象条件に左右されない野菜工場だ。筆者は科学の進歩が農業に活かされることを否定しないが、野菜工場は本来の農業の形態ではない。

真っ暗な建物の中でつくられるもやし工場を誰も農業とは見ていない。年中生産、高付加価値を謳う野菜工場もまた農業とは別世界、似て非なるものである。日本の農業は日本人特有の文化性、精神風土を土台に成り立っている。

太陽光、土壌、気象などの自然界の力は人知を優に超えている。その大地に突っ立つ人間は、自然と共生しながら適地適作を考えて農業を営んできた。それゆえ農業のやり方は国柄を映した文化なのである。万国共通の形態は存在しない。

生産性が上がる、儲かるだけを際立って追求していけば、水耕式野菜工場や遺伝子組換え作物、出荷を早める成長ホルモン投与に留まらず、そのうちに家畜のクローン、試験管飼育など倫理観を放棄した方策も出てくるようになる。人間だって妊娠期間や出産時の苦痛から逃れるため、クローンや試験管ベビーの到来も。いやいや、科学は進歩しても人間としての倫理観は持ち合わせたいものだ。

はまなす財団理事長の濱田康行氏は10月22日付読売朝刊で、苫小牧の野菜工場を視察して「一年中生産は農業の進化」と捉えていたが、大いに異議ありである。野菜工場は農業革新をもたらす救世主みたく論じられるが、救世主にあらず。11月1日、石破大臣も苫小牧の野菜工場を来訪したことが報じられた。やはり驚嘆し、褒めちぎることしきり。農業の無理解を嘆きたくなる。

余談だが、ついでにもう一つ。野菜工場の先輩格は〝鶏卵生産〟だ。鶏卵生産は畜産の部類だが、筆者からいわせれば日本の鶏卵生産はまさに「鶏卵工場」であり、第二次産業の部類に入れても不都合はない。みんなから「鶏卵は物価の優等生」と褒めちぎられて、鶏卵生産の実態に目を向けてこなかった。

鶏一羽あたりB5版にも満たない狭い鶏舎で飼育され、鶏を機械のごとく扱い(バタリーケージ方式)、24時間フル操業の過酷条件にある。欧州ではこの飼育法は動物虐待に当たるとして禁止されている。家畜や家禽といえども過酷な飼育法は咎めなければならない。日本にも動物愛護法はあるが、畜産の世界に警鐘を鳴らしたことがない。生産性第一主義の結果、「卵は物価の優等生」であって、これらを咎める精神、価値観を日本人も共有したいものである。

生産性第一主義、効率主義でいくことすべてが〝是〟ではないことを日本人は悟るべきである。

投稿者について

山田 勝芳

山田 勝芳

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留萌市生まれ(1952年)の札幌育ち。地元出版業界にどっかり根を下ろすこと40年。外に対しては「本州資本に対抗する視点、脱・植民地の視点」、内に対しては「真に豊かな北海道共同体づくり」という理念の下、実体験に基づく北海道論を展開。現在、月刊ISMとイーハトーヴを主宰。

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