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農協よ、離農者の出ない営農術で競え


筆者が農業に目を向けるきっかけは太田寛一さん(故人)と取材で会ったことだった。当時(昭和50年代)、士幌町農協の組合長にしてホクレン会長であった。太田さんは戦後の農民運動家であり、営農はしていなかったが農協組合長に就いていた。恐らく、非農業者で組合長になったのは、後にも先にも太田さんだけではないか。当時、農業界きっての革命家だったのである。全国を舞台に、全農会長も務めている。

太田さんと同時代の農民運動家として、後に池田町長、社会党の参議院議員をした丸谷金保さん(故人)がいた。ワイン町長として有名だが、当時池田町は冷害続きで町財政は最悪だった。「農家が豊かにならなければ、町の税収も増えない」。そこで発案されたのがブドウ栽培、ワインづくりだった。自治体ワインの先駆けとして全国的に有名になり、視察団や観光客がわんさと町を訪れた。こうして観光のマチとしても活況を呈したのである。

「これを見てごらん」と丸谷町長が差し出したのは〝プレイボーイ日本版〟。アメリカ人女性のヌードに混じって十勝ワインの特集記事が組まれていた。役所にあったヌードグラビア誌、奇妙で、微妙で、笑ってしまった。「ヌード雑誌とは知らないで取材を受けたんだよ」の述懐していたものだ。

雪の少ない池田町ではぶどうの苗が凍ってしまう。難産の末、耐寒性に優れた品種や栽培法を編み出し、今日につなげている。しかしながら充分な原料は地元で生産できず、仁木町産ぶどうを使っている現状は大目に見なければならない。十勝ワインは北海道のワインづくりの先駆けとしての功績は損なうものではない。そんな池田のマチを作った丸谷さんも昨年春、他界した。

偉大なる二つの巨星は、今はもういない。今日、離農者続出の傾向は変わらない。国も、道も、地方自治体も、そして肝心要の農協でも食い止められない。要するに無策と怠慢だ。儲かる農業を描けなかったからだ。規模拡大を連呼するのは無策に因る離農を隠したいからだ。子々孫々栄える農業は無理なのか? そんなことはない!

太田寛一さんがかざしたスローガンは「農家所得全国一」であり、それを本当に実現させたから凄い。どこよりも早く、本州の大消費地圏に進出して農業倉庫・加工センターを建設し、主産物である馬鈴薯を送り込んだ。こうなれば安定供給を求める流通業界との取引が優勢に進む。まさに将来を見据えた先行投資であった。

また無名に近かったカルビーと原料供給の契約を結び、確実な販売先を確保したことも大きい。その後、カルビーは原料の安定確保により成長を遂げ、今日の地位を築いた。当時、高度経済成長の時代ではあるが、先手必勝とはまさにこのことだ。

士幌町農協に関わることばかりではない。十勝の酪農業のため、現よつば乳業の前身である「北海道協同乳業」を興したのも太田寛一さんである。乳価交渉で険悪な状況にあった大手乳業会社に対抗するため、生産者サイドの乳業会社を興してしまった。慌てた乳業大手は話し合いのテーブルにつくようになった。太田寛一さんには凄みがあったし、まさに先を読むことができる指導者であった。

現在でも士幌農協の農家所得は全国一だ。離農者が少ない分、規模拡大は進んでいないが地域共同体として理想的だ。規模拡大ばかりが農業ではないことの実証例だ。原料供出農家の出資する「ポテトフーズ」もある。企業が儲かれば、出資者の農家も儲かる仕組みだ。

一方のよつば乳業はどうか。以前に取材したときは「他の乳業大手と横並びの乳価で仕入れている」と話していた。これを聞いて、大いに失望したものである。これでは大手乳業会社とどこが違うのか? 酪農家から見れば、大手に出荷しても、よつば乳業に出荷してもまったく同じだ。大手乳業会社に対抗する生産者サイドの乳業会社ではなかったのか。これでは、よつばと農協だけが儲ける仕組みだ。今は亡き太田寛一さんならば、この現状をどう見るであろうか?

JR札幌駅構内の広告で「よつば乳業は酪農家がつくった会社です」のコピー文があったが、これは明確に誤りである。出資者は農協であって酪農家ではない。よって利益配当も農協であり、個人には還元されない。なぜなら、農協組合員はすべて酪農家で構成されているわけではないからだ。筆者が記事(ISM2014年12月号)で取り上げたからではないだろうが、今年に入ってからこの広告もはずされた。何年間も誤情報を消費者に垂れ流してきたのである。

さて、太田寛一さんに続く指導者がなかなか出現してこない。最近はどのマスコミも農協批判だ。しかし、農協のすべてが悪いわけではない。現実に農協を必要としている非力な生産者もいるのだ。ただし、農協活動の大勢は農家経済の向上に向けた営農指導をするというよりも、組織の利益一辺倒で今日まで来たことは確かだ。また、中央会組織も官僚的で、地方農協を力で支配する体質がありありだ。TPPの取材の折、「どこの農協の、誰がそういった」と語気を強める。うっかり口にしようものなら先方に迷惑がかかる。他の4連とは肌がかなり違う、まさに井の中のダラ幹たちだ。

本論へ戻る。農協の優劣は第一に「離農者を出さないこと」、第二に「農協間は農家所得向上で競う」この2点に尽きる。ランキング表を公表して農協間の競争にしていけば、「本来あるべき農協像」が見えてくるのではないか。離農者の続出する農協は大いに問題とすべし! 儲かることが唯一継続への道、農協は域内組合員の農家所得全国一を目指せ!

投稿者について

山田 勝芳

山田 勝芳

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留萌市生まれ(1952年)の札幌育ち。地元出版業界にどっかり根を下ろすこと40年。外に対しては「本州資本に対抗する視点、脱・植民地の視点」、内に対しては「真に豊かな北海道共同体づくり」という理念の下、実体験に基づく北海道論を展開。現在、月刊ISMとイーハトーヴを主宰。

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